第5章−8


「…………」
渡せなかった荷物を抱え、あたしはとぼとぼと家路に着いた。
往路のテンションはすっかりしぼんで、今は打ちのめされきった気分だった。

こんなことやらなければよかった。
あたしは駄目なやつだ。
今はもう、部長にばれたら怒られるだろうかってことばかりが気になっている。

アンナちゃんが余計なことを言わなければ、あたしの保身は可能だろうか。けど、何だかアンナちゃんって言わなくてもいいことに限ってよく喋る気がするんだよ。
とりあえず、明日アンナちゃんがシュウと対決することになったことを報告して…

「…早退したんじゃなかったのかよ?」
「うわあっ!」

横からいきなり声をかけられて、あたしは飛び上がった。
下を向いて歩いていたから、全然気が付かなかった。緑の木立にまぎれるように緑のワニがぬうっと立っていて、訝しげな視線をあたしに送っていた。
「だ、ダンディー。びっくりした…」

びっくりしたのは、後ろめたいからだ。あたしはごくりと唾を飲み込んだ。
「い…いつからいたの?」
「…さっきから」
「さっきからって、いつから」

ダンディーが長い顎をちょっと動かして、道の向こうの方を示す。
去って行ったと思ったDWCのバンが反対車線の路肩で止まっていた。
「早退したのに、何でこっちに来てるんだろうと思ってさ。車があるから、乗っかってくか誘おうと――まあ、余計なお世話だったみたいだな」
そう、ダンディーは言って、じろじろとあたしを眺める。
あたしはしどろもどろになって答えた。
「う、うん…ありがたいけど、余計なお世話だったよ…」
目がいいな、ダンディー。
あたしとアンナちゃんが話していたところも、全部見ていたんだろうか。

元々だだ下がりだったテンションに、それでとどめを刺された気分になった。
あたしは抱えた荷物に顔がめり込むくらい深くうなだれた。
「…あたし、どんだけ要領悪いんだって感じだね」
「うん。まあ、俺もそう思うよね」
「…………」
ちょっと涙ぐみそうになっていたら、ダンディーが笑ってあたしの背中を叩いた。
「ほれ、泣かない泣かないー。部長には内緒にしといてやるからさ。用事があるわけじゃなかったんなら、一緒にメシ食いに行こうぜ?」

あたしはダンディーを見上げた。
「…ほんと?部長に言わない?」
ダンディーはこりこりと後ろ頭をかきながら言った。
「まあ…俺もレジェンズだからさ。あいつはこれからどうするんだろうなーとは思ってたしさ。が気にするのも分からなくはないつーか。……」
「…………」
「お前のせいじゃないって。これで早いとこ決着が付くんなら、それはそれで、よかったじゃん?」
ダンディーが慰めてくれる。
あたしは力なく笑った。
「…ははは。そうだね」
慰められたからってどうにかなる話ではないけれど、ダンディーからばれることはなさそうだと分かって、そこは、ちょっと元気が出た。
ダンディー、いい人だな。
前から知ってたけど。
あたしはどうしてここにいるんだろう。悪いことをしたくてこの世界に来たはずじゃないのに、上手く行かないことばっかりだ。でも、どんな時にも誰かが優しい。何だかそれが心に染みた。


ダンディーが出し抜けに言った。
「――お前って何だかレジェンズに似てるよな、

あたしはぽかんとしてダンディーを見返した。
ちょっと手を広げて自分の指の感じを眺めてみる。腕や体を見下ろす。
それから改めて顔を上げて、自分とダンディーを比べてみた。
「……、そうかなあ。似てないよ。全然」

「似てるよな」
ダンディーはもう一度言った。
「どの辺が?」
と、あたしは聞いてみたけれど、ダンディーはうまい説明が思いつかなかったのか、何やら訳の分からない手振りをしながら途中で固まってしまう。
「…分かんねえよ。分かんねえから、何だか似てるって言ったの!」
「それ、分かんないのはあたしの方なんだけど…」

よく分かんないけど、他人から見た自分のイメージって、意外と思ってるのと違うって言うよね。
多分その辺のことだろう。


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