ランシーン様が「ドリームマシン・プロジェクト」を思いつきます。
 オリキャラ注意。一部の元ネタM・エンデ「遠い旅路の目的地」





夜の来る少し前だった。
換気口隣のいつもの場所で、ランシーンは手にした書類に目を落としたまま、じっと考え込んでいた。
「どうしたものでしょうかねえ。…」
呟いてみる。
独り言だ。答える者は現れない。この問題に限っては、流れる風さえも口を閉ざし、語ることを拒む。
太陽は沈み切り、丸い窓の外の空は次第に陰りを増していく。辺りの空気が冷えていく。
「試してみてもいいでしょう。…悪くはない。その、価値はある――」

文字も読めない暗さになった頃、ランシーンは長い溜息をついてから立ち上がり、彼にしては珍しく精力的に――本当は社長かユルに電話して済ませたかったが、今回ばかりは人間に任すことはできない種類の仕事であろうと思われたため――、自力で歩いて洞窟を抜け、エレベーターに乗りこんだ。
ボタンを押すと、下降が始まる。
蛍光灯の青白い明かりの下で、ランシーンはもう一度手にした紙片を眺める。
81種のソウルドールの名前を記した82行のリスト。風・火・水・土の四大レジェンズのソウルドールは回収過程で失われてしまった。

82行のリスト。
世界各地の遺跡からソウルドールを回収していたDWCの回収班は、81種のどれにも分類できないソウルドールを一つ、発見している。内部の結晶体の傷みが激しく、溶け崩れた塵で水晶が濁っていたために、中に封じられているレジェンズの種類を判別することができなかったのだ。
リストの最終行、そのソウルドールの名前はこうなっている。「みちのレジェンズ」。



最下階に着いた。
金庫室に寄る前に、ユル・ヘップバーンのオフィスに顔を出す。
DWCにあるソウルドールは言うまでもなく全てがランシーンの物だ。しかしそれはそれとして、実際に回収班を使ってソウルドールを集め、リストを作って金庫で管理しているのは、もちろんユルなのだった。
一言挨拶しておこう。展開次第では技術者と、汚れ仕事をやれる部隊が必要になる話でもある。

デスクに座ったユルは、レジェンズ絡みのデータベースを開いて何やら作業に没頭しているところだった。
手元にいくつかのディスプレイが展開され、ユルの操作に合わせて膨大なルーン文字と人工知能の癖のある読み上げ音声が絶え間なく流れている。画面を睨みながらキーを叩くユルの眉間には深い皺が刻まれ、部屋の照明のせいでひどく青ざめて見えた。
何を調べているのだろうか。
ディスプレイに描かれた図面は、ランシーンも知っている物の形だった。

ランシーンの入室に気付くと、ユルは展開していた画面を消して、こちらに顔を向けた。
「やあ、ランシーン。珍しいね」

ランシーンは首を傾げて尋ねた。
「今のはタリスダムですか?…変わった色のようでしたが」
「ああ。…」
瞬間、ユルの顔を不思議な影のようなものが横切った。ひどくこの場にそぐわない…ユル・ヘップバーンという人間がこのランシーンに向けるものとしてはあり得ない種類の、何か。
一瞬だけ水面に浮かび上がったそれは遥か彼方で一瞬だけ空を裂いた雷鳴に似て、普段のユルの表面を引き裂いて現れるほど激しく、けれどごく短い、遠いものだったので、ランシーンはそこにはっきりと意味のある形を見て取ることはできなかった。まばたきしてもう一度見返せば、ユルはいつもと同じように、親しげな好奇心に満ちた微笑を浮かべている。
「…そう、タリスダムだよ。タリスポッドみたいに、こっちも実用化できたらいいなと思ってね。文献を当たってみていたところだ」
ユルの言葉に、ランシーンは満足を覚える。今も昔も、この人間は研究熱心だ。

「ソウルドールを一つ、借りていきますよ。…恐らく彼自体は全くもって戦力にはならないでしょうが」
面白そうにユルが尋ねる。
「ああ、構わないよ。何か新しい悪だくみを思いついたのかい、ランシーン?」
肩をすくめてランシーンは笑った。
「悪だくみだなんて。…ふ。ふっふっふっふっ」
「これはこれは。言い方が悪かったかな?…ふ。ふっはっはっはっ」
と、ユルも笑った。
しばらく二人して悪役笑いに浸った後で、ランシーンは低く付け足した。
「――開発部からいくらか人手を寄こしてもらうことになるかもしれません」
それで伝わる。ユルが頷く。
「分かった。手配しておくよ」

今も、昔も。10年こうして過ごしてきた。
二人のこの関係が変わることがあるとは、この時のランシーンは露ほども疑いはしなかった。
夜の来る少し前だった。





金庫室の壁一面にソウルドールが整然と並び、淡い光を放っている。濁って中身の見えない唯一の不良品は、簡単に見つかった。
タリスポッドにはめ込む。ひどい状態だが、こんなものでも多分、リボーンできなくはないだろう。
そこまで確認してから、ランシーンはタリスポッドを手の中に握りこみ、最上階へと引き返した。
彼に聞きたいことがある。レジェンズたちのソウルドールが並ぶ前では憚られる話題だ。

みちのレジェンズ。ウインドラゴンであるランシーンに、「未知」は存在しなかった。
この濁ったソウルドールは変化の過程にある存在なのだとランシーンは知っている。変化。ある特定の場合を除き、レジェンズには決して起こりえないもの。
用件は、彼が変化した――罰を受け、地位を追われ、元のレジェンズではいられなくなった、その原因に関わることだった。

「…リボーン」

タリスポッドが起動し、属性エフェクトの代わりに不快な臭気と埃が吐き出される。ランシーンは思わず顔を背けて翼で鼻先を覆った。
呼び出されたものは、見たこともないほど年老いた老人の姿をとって現れた。
よろよろとランシーンの前にうずくまる。
痩せこけて縮んだ体をぼろぼろになったローブに隠し、フードを深くかぶっている。身にまとう布も、まばらに毛の生えた手足も、すっかり色あせ、埃まみれで、うずくまる姿は灰色のボロ布の山のように見えた。

老人が引きつった呼吸をし、錆びた金属がこすれあうような耳障りな音がした。遅れて、きしんだ声が出る。
「これは、ウインドラゴン…。自己紹介の必要はございますかな」
かつてレジェンズであった者。
変化の過程に堕ちた者。
余りにも弱々しく、惨めで哀れな姿をしていた。はいつくばる様を見下ろしていると、こちらの気分まで滅入ってくるようだ。
ランシーンは陰欝な声で告げた。
「あなたに名前がないことは知っています。以前のあなたが何であったかに、興味もない。…」
敵ですらない。本来は捨て置くべきものだ。
「それでは…、ウインドラゴンともあろうお方が、名前をなくした老いぼれに何の御用でしょう」
「私であろうとそうでなかろうと。誰かがあなたを呼び出して尋ねることといったら、たったひとつしかないでしょう。かの地へ赴く方法を、私は探しているのです」

老人は体を波打たせ、喘ぐように呟いた。
「かの地。…」
それきり全ての動きが停止する。

このぼろぼろに風化した得体の知れない古いものは、今の会話を最後に生きることを止めてしまったらしい。見守りながらランシーンがそう思いかけたとき、老人は再び動き始め、焦点の合わない動きでのろのろとランシーンに顔を向けた。もしかしたら、目が見えていないのかもしれない。
「…望めば道は開かれる。わたしから教えてさしあげられることもあるでしょう。――だが、それが禁じられていることをご存知かな」
ランシーンは冷ややかに尋ね返した。
「禁じられている?誰に?」
彼は異端の学説を唱え、道を見つけた。それゆえにレジェンズではいられなくなった。だが、ウインドラゴンであるランシーンが彼のように罰される事態など起こり得ない。
老人は首を折ってうなだれ、その言葉を口にすることをひどく恐れているかのように、声を低めた。
「神に。…」

絞り出すように囁かれた声は異様な響きを伴っている。まるで今まで一度も聞いたことのない言葉のように聞こえる、とランシーンは考える。
沈黙が落ちる。
老人がきしんだ息を吐いた。
「『その者、文明の黄昏時に現れ、幕を引く』――…そういう風に、世界はできている。『そういう仕掛けでできている』」
痩せ細ってグロテスクな色をした腕が持ち上がり、何かを求めるように宙に形を描く。
「とても丈夫で、長持ちのする、よくできた仕掛けです…大したものだ。生まれてこのかた全てを問題なく動かしてきた――あるはずのない道を見つけたいなら、このからくりの裏側に回らねばなりません」
それは螺旋の形。
おぼつかない動きで描かれた軌跡はいびつに歪んでいる。

「果たしてこの舞台装置パラダイムはあなたの目にも見えておいでかな、ウインドラゴン。清浄な地球――文明に汚されることのない完璧な世界――『そんなものは最初から一度たりとも存在していない』ことが。拭っても拭っても消えない汚濁のために、我々は永遠に戦いを繰り返し、血を流す――」
「私はあなたの妄言を聞きたいわけではないんですよ」
聞いているのに飽きてきて、ランシーンは老人の話を遮った。
「あなたがどのような考えの下で『道』を見つけたかなんて、私にはどうでもいいんです。あるなら使いたい。それだけです」

老人は口をつぐみ、しばらく経ってから独り言のように言った。
「どうでもいい――あるはずのない道が存在していることが。通れれば、どうでもいいと。変わった話もあるものだ」
それからランシーンに顔を向け、何かを確かめるように呟く。
「ウインドラゴン。…黒い翼の、ウインドラゴン」
ランシーンは固い声で答える。
「私がかの地へ赴くのは、正しいことを行うためですから。あなたとは違います」
言い切る言葉は、我ながら虚ろに聞こえた。本当に全てが正しく行われているとしたら、ランシーンがこの老人に接触する理由はない。
「正しいことを。…そうでしょうとも。正しいことを、あなたは求めていらっしゃる」
老人がランシーンの言葉を繰り返す。
「…変わった話もあるものだ」
それきり灰色の石になったように何も言わなかった。
問い詰められているような気分になって、ランシーンは目を伏せ、不承不承告白した。
「私のリボーンには問題がありました。…解決できる――とは思っている」

風のサーガの下にタリスポッドが生まれてくる。DWCの最上階で、携帯扇風機の風に当たりながらランシーンはその未来を予測した。
しかし未来のその場所に、サーガに導かれて生まれてくるべきウインドラゴンは存在しない。
10年も前に既にリボーンされてしまっている。ここにいる。
それなら生まれてくるタリスポッドをこちらで回収すればいい。と、ユル・ヘップバーンが言った。
タリスポッドはDWCの商品なのだ。不良品だった、お取替えします。で済む。怪しまれることは何もない。こういう時のために、私たちはレジェンズバトルを子供のおもちゃとして普及させてきたんだろう?
それもそうだとランシーンは同意して、二人はサーガの下に回収要員を派遣した。
でも、間に合わなかった。

間に合わなかった――自分は本当に間に合わなかったのか?

もしかしたら、無意識に決断を遅らせ、見極めようとしていたのかもしれない。
なぜ自分は本来目覚めるべきときよりも10年早く世界に現れたのか、なぜ自分の名前を呼んだのはサーガではなくユルなのか。
なぜ、なぜ、なぜ。本当は前だけを向いているべきだったのだ。足元に目を落とし、そもそも自分が根ざしているものへの疑問に気付いてしまえば隘路に嵌る。私は何かを欠いて生まれてきた。何かを。――何を?
自分というウインドラゴンが既にリボーンされてしまっているならば、風のサーガがタリスポッドを手に入れたとき、一体何が起こるのか――

そしてあれが生まれた。

いつもと違うことが起きている。だが、それを認めるべきではなかった。自分を取り巻く状況の不可解な齟齬は、時を追い意識するほどに大きくなっていく。だから今、このような存在にまで協力を求める羽目になっている。
老人の体が震えた。
「それは、つまり…このレジェンズウォーにおいては、二体のウインドラゴンが存在していると…?」
ランシーンは吐き捨てた。
「違う。あれはまがいものだ」

まがいものだ。
今だって別に、放っておいても構わないのだ。
主導権を握っているのは自分だ。
前哨戦をやらせておけばいい。レジェンズ同士でぶつかりあい、サーガと地球を目覚めさせ、やがて来るレジェンズウォーに備えて嵐を高めておく――あれだってそれくらいの役には立つ。
「そう思ったんだけど。…嫌なヤツなんでね」
ランシーンは鼻を鳴らして唸った。
「何度かタリスポッドを回収しようと試みたんですが、私の部下は手際が悪い…。ならばいっそ、かの地へ行ってあれが呼び出された流れを正すというのも、そんなに悪くはない手でしょう」
「…………」
ここへと至った思考の流れを自分で自分に確認しつつ、ランシーンはゆっくりと説明する。
「そういう、ちゃんとした用事があるんですよ、私には。何なら来たるべき時に備えて、あちらで戦力の増強を図ってもいいですからねえ。…」
間違っていない。
私は間違ってはいない。
振り返り、噛み締めながら、同時に分かりきってもいる。どれほどなめらかに言い繕っても、禁忌に手を染めようとしている行為自体が全てを語り、己が己の発する言葉以上に必死であることを隠せはしないのだ。

「…何を焦るのです。黒き翼の、ウインドラゴンよ」
老人が囁くように言った。
「めぐる螺旋は決して同じ場所を辿りはしない――運命は揺らいでいる。今日のわたしと明日のわたしが同じではないように。過去のウインドラゴンと今、わたしの目の前にいるウインドラゴンが同じではないように。ほんの一瞬先でも、我々は変わっていく
ランシーンは思わず顔を歪めた。

この存在は病んでいる。変化の過程にあるからだ。
レジェンズもまた変化を免れえない存在なのだ。
ある特定の場合にのみ起こるその変化は、決して公に認められることはない。かつてレジェンズであったこの老人の学説が決して認められることがなかったように。
ある特定の場合のみ。
闇に呑まれた場合のみ。

ランシーンの考えを読み取ったかのように、周囲に闇が濃くなった。
「運命は揺らいでいる…きっと変われる。今度こそ――」
老人がこちらに向けて歯のない口を開けた。喉の奥から絞り出された息がしゅーしゅーとかすれた音を立てる。
苦痛に喘いでいるようにも、笑っているようにも見えた。
「今度こそ。わたしは最後の血の一滴まで抗おう…憎悪と恐怖で世界を染めよう。負の存在は正の存在と全く同じ価値と重さで地球を構成する一部なのだと決して認めることはない者たちに、永劫の螺旋の先にある世界を見せよう…――それがわたしと、」
死蝋の指が持ち上がり、真っ直ぐにランシーンを指差した。
「あなたの役目。…」

不快なものに貫かれたような気がした。
「……私の。…」
「これはあなたの役目でもあるんですよ――黒き翼の、ウインドラゴン。あなたにも本当は分かっているはずだ。サーガがリボーンした方が『まがいもの』なんてこと、あるわけがない」

ランシーンは目を見開いた。
咄嗟に声が出なかった。
睨みつけたが、老人は弱々しげにうずくまったまま、動じる気配も見せない。
惨めで哀れで、無力な存在――闇に巻かれて生気を取り戻したのか、えぐれた眼窩の底にある目は暗く光ってランシーンに向けられている。
ゆっくりと、訴状を読み上げるように老人は言った。
「サーガにリボーンされた方と、そうでない方。まがいものはどちらでしょう。誰にでも分かることだし、あなたにも本当は分かっているはずだ。なのにあなたは自分をウインドラゴンだと言う――自分が確実にウインドラゴンであり続けるためならば禁じられた道を探すことも厭わない」
ランシーンは声を荒げて老人の言葉を遮った。
「戯言を」
「その戯言を、あなたはわざわざ聞きにいらした。…あるはずもなく。…いるはずもない」
「…………」
なぜ、こんな虚言に自分は動揺するのだろう。
ウインドラゴンともあろうものが。痛いところを突かれでもしたかのように。
喘ぐような呼吸音が耳の奥で大きくなる。それが老人から発せられる音なのか、それとも今喘いでいるのは自分なのか判然としない。
老人がゆらゆらと首を振る。
「そう――道は教えてさしあげましょう。けれどきっと、あなたの望みは叶わない…あなたは流れを正さない。なぜなら、レジェンズウォーを起こすのはあなたではないからです」

今度こそランシーンは凍りついた。
闇が濃くなる。視界全体が暗くなっていくようだ。
老人の声だけが続く。
「いずれ戦いの引き金を引くのはあなたではなく、別の誰かだ…。恐らく彼はあなたのようにウインドラゴンであろうと努めてはいない…あなたのように使命のために準備を整えようともしない――ひょっとしたら、彼自身は戦うことを望んでさえ、いないかもしれない。それでも引き金を引くのはあなたではなく彼なのだ」
反論することができなかった。
「なぜ…お前が、それを」
この存在は病んでいる。語る言葉も病んでいる。先ほどまでは確かに全てが偽りだった、なのになぜ。

彼が預言する未来を、ランシーンも知っている。夢を見た。
あの夢。状況を理解できずに顔を上げると、風はもう止んでいた。鎖に繋がれ、翼を縫いとめられた暗闇の中で、ランシーンは戦いの引き金が既に引かれたことを知ったのだ。
自分ではない者の手で。
あの夢は。

ひどい眩暈がして、ランシーンは一息に距離を詰めて老人の胸倉を掴み上げた。
「なぜ知っている。お前は未来に何を見た、ジャバウォック…!!」
何の抵抗もなくぼろぎれのような体が宙に浮いた。力を込めてみても手ごたえはない。ランシーンの目の前にいるのは最初現れたときと同じ、あくまで哀れで無力な老人だった。
吊るし上げられてぶらぶらと揺れながら、老人は喘ぐような息の音をまた立てた。
「残念ながら、何ひとつ――わたしはまだジャバウォックではないし――未来をあらかじめ知ることなどわたしには叶いません。この老いぼれの目に見えるのは、今、ここにいる黒い翼のウインドラゴン…――」
かくりと首がのけぞって、死霊のように病み衰えた顔があらわになった。
喘ぐような息の音がさらに大きくなる。唇の両端が左右非対称に歪み、痙攣しながら吊り上がる。

はっきり見える。彼は笑っているのだった。

「あなたにも本当は分かっているはずだ。――自分を疑い、ルーツを求め、己が己である証明を得ようとして『課せられた使命』に執着する――世界の意志の恩寵から見放された空虚な自意識――それは人間だ…まるで人間のようだ」
「…黙れ」
病んで無力な。闇への末路を辿るしかない、かつてレジェンズであった者。
ランシーンに吊るされながら爪を立て、毒を注ぎ込もうとしている。
ひどい眩暈がする。
あの夢は。
ただの夢だ。今は、まだ。
途切れ途切れの引きつった声が、黒い海の底から湧き上がる呪いの言葉になってランシーンの全身に降りかかりまとわりつく。
「あなたは人間だ――黒き翼の、ウインドラゴンよ。他のどんなレジェンズよりもあなたは、人間に似ている――」
「黙れ!!」

ランシーンはそのまま老人を床に叩きつけ、倒れた体を引き裂いた。
老人はくぐもった断末魔を上げて消え、後には元の、濁ったソウルドールが残された。

…不愉快な相手だった。
道を聞くのは、また今度にしよう。


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