第14章−1


ある日仕事が終わってアパートに帰ったら、メールボックスにハガキが入ってた。
見覚えのない外国の住所。
差出人は――エドさんだ。

「…ふふ」
エドさん、意外と字が汚い。情熱的に書き殴られた宛名を眺めながら、あたしは自然と笑顔になった。
あたしが同僚としてエドさんと一緒に過ごしたのはちょっとの間なのに、律儀な人だなあ。
ハガキを裏返すと、印刷された写真とメッセージ。
バックはなぜか吹雪の雪山、エドさんと、エドさんの5倍くらい幅のある毛深い女性が並んで微笑んでいる。

『結婚しました』

そのまましばらく、写真の中でぎこちなくはにかむエドさんを凝視していたと思う。

あー。
これ、顔も知らない年上の親戚とかの年賀状でよくあるやつだ…
普段は特に手紙でやり取りするほど付き合いないのに、っていうか付き合いないからこそこういう機会にお知らせしたいですみたいな、受け取るこっちに全然関係ない、あの…

「ってええええーーーーーー!?」
つくづく熟視した後で、突っ込みの絶叫がほとばしる。

フォルクスワーゲンのピンクのバンが路肩に止まった。
運転席の窓からこっちに顔を出したのは、今にも窓につっかえそうな大きなワニ顔の鼻先だ。
「どーしたんだよ、。でっけえ声で」
「ちょ、ダンディーー!!だって見てよこれ、エドさんが!!自分のこと探すみたいなこと言って、嫁探してんの!?見つけんの早っ!!っていうかあたしこの人!見たことある!」
タイミングよく声をかけてきたワニにぶんぶん腕を振ってハガキを見せつけつつ、この突っ込みたい気分を全力でぶつけつつ、
…途中で我に返った。
ハガキを見せつけた姿勢のまま、あたしは棒立ちになってピンクの車を凝視した。

「……、えっ。ダンディー???」
「……、よお。久しぶり」

すっかりあたしの勢いに押されたダンディーが、ぎこちなく笑顔を浮かべて手を上げた。


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