ランシーン様が語ります。





生まれたときから、どっちかって言うと、インドア派でした。
明るい日差しは目に痛い。外気は私を脅かす。
薄暗い室内で朝から晩までじっとうずくまっているのが、一番落ち着く。
私はウインドラゴンなので、大空を舞うための誰よりも美しい翼を持っている。持ってはいるが、正直、飛ぶより歩いた方がいいし、歩いているより立ってる方が、立ってるよりは座った方がいい。と思う。
体を動かすのって、めんどくさい。

ユルにそう言ったら、私がすっぽり収まるサイズの丸い移動ポッドを特注してくれた。100%UVカットの特殊フィルムで覆われていて、フックとプロペラ付き。自力で風を起こして飛んでもいいし、それが面倒くさい時はフックをクレーンで釣ってもらって移動することもできる。牽引してもらえるように、社内のあちこちにレールも引いてもらった。
いいね、人間の文明。とっても便利。
最高に堕落してる。後で滅ぼさなきゃ。

動きたくないし外にも出たくないけど、私はウインドラゴンなので、いつでも風を感じていたい。
それもユルに言った。ユルはしばらく無言になった後、何とかしてくれた。

ダークウィズカンパニー本社ビルの最上階。
人工的に作られた薄暗いこの洞窟は、私好みに陰気で静かだ。明かりとりをかねた巨大な丸い換気口には、4枚羽の巨大なファンが取り付けられている。ここからは見晴らしの良い景色を眺めることもできて、わざわざ自分で外を飛んだりしないで済む。
規則正しく空気を切り裂く、重くて鈍い音がする。私のために作られた4枚羽の巨大なファンは、一定の速度を保って回転し、日差しを避けて窓際からちょっとだけ離れてうずくまる私の上に規則正しい影を落とす。
外気を和らげ適度に調整された風が、休むことなく私の翼を揺らしてくれる。

いいね。
快適だね。
移動ポッドは作ってもらったけど、そもそも移動自体したくないから、あんまり使わないんだよね。
とても気に入ったので、用事があってもここから一歩も動かなくていいようにしたい。
もちろんユルに言った。ユルは前よりもさらに長く無言になった後、私の洞窟に業者をよこして専用の電話線を引いてくれた。
ユルの部屋と、ユルが忙しい時のために社長室にも直通。出前も取れます。
もうね、根が生えるまでここに住んじゃいたい。

と、思っていたのは最初のうちだけで、しばらくしたら物足りなくなった。
私はユルに電話をかけた。
規則正しい風が来るのはいいけど、変化がなくてつまんない。ぶっちゃけ飽きた。
ユルは再び、本当に長いこと無言になった後、電話をガチャ切りした。
今度は業者も来ないし工事もなかった。
ユルは一人で小さな扇風機を抱えて現れ、いい子だからもうこれで我慢しなさい。と子供に言い聞かせるような口調で私に言い、去っていった。
換気口のファンよりずっと小さい。人間が部屋において使うものだそうで、私だと指先でつまめるサイズだ。
スイッチを入れた後は自分で持って、適当に動かしながら風に当たる。

いいね。
これもまた快適だね。
自分で持ってなくちゃいけないのがちょっとめんどくさいけど、この風の微妙な変化が、欲しかったんだよね。
いつもの定位置にうずくまってファンが送り込む風に当たりつつ、時々携帯扇風機を回す。
これで私は今度こそ心安らかに、根が生えるまでここに住めることだろう。

私はユルにお礼を言った。
電話の向こうで、ユルはなぜか溜息をついていた。
人間は苦労の多い生き物なのだそうだ。愚かなことだ。



私はウインドラゴンのランシーン。生まれたときからどっちかって言うとインドア派。
レジェンズウォーはやがて始まる。その筋書きを、私は全て知っている。
やがて目覚めるジャバウォックの種さえも既に私の手の中にある。めんどくさいから管理してるのはユルだけど。

だから私は、この快適な暗がりで、動くことなくただ待っていればいい。
いつか戦いの引き金を引く日に向かって、全てが滞りなく進んでいる。


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